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  • ACP Lab. とは?

 ACP Lab.は、在宅医療の現場で直面してきた「本音が語られないまま過ぎていく最期」や、「家族が決めきれずに戸惑う瞬間」を何度も目にしてきた私たちが、「もっと早く話せていたら……」という思いから立ち上げたプロジェクトです(運営:株式会社omniheal)。

 日々、人生の最終段階に向き合う多くの方々と出会う中で強く感じるのは、「どのような医療を受けるか」よりも、「どう生き、どうありたいのか」という本人の価値観こそが、本人と家族、そして医療・介護職をつなぐ大切な軸になるということです。価値観の共有は、「何をするか」よりも「なぜそれを選ぶのか」という背景を理解することにつながります。たとえ病気が進行しても、本人が大切にする価値観や人生観を、日頃から言葉にし、身近な人と共有しておくことが、後悔の少ない選択につながっていきます。
 
 私たちは、自分の価値観や人生観を見つめ直したり、身近な人に共有しやすくするためのコンテンツやワークショップの提供を通じて、医療現場の課題をクリエイティブの力で解決します。

なぜ人生会議(ACP)が重要なのか

omnihealでは、人生会議(ACP)の考え方を普及啓発し、自分の人生に思いをはせるきっかけをつくることを目的として、すごろく型ボードゲーム「エンディングゲーム」や体験型展示「寿命が今日決まったら展」の企画・運営を行っています。

どのような医療・ケアを受けたいか、人生の最終段階に本人の意思を反映させることは、本人の尊厳を守り、本人や周囲の人が「最期まで自分らしい人生を送った」と納得するために重要なポイントです。ACPのような終末期の話し合いを行った人は、行わなかった人に比べて死を受け入れられており、積極的な終末期医療が行われなかったという研究結果があります(Alexi A Wright.et al.JAMA.2008;300:1665-73.)。積極的な治療を行えば行うほど、家族など介護者から見た患者の生活の質(QOL)は低下。介護者のQOLも低下し、後悔の念を持ったりうつ病になるリスクが高まりました。

ACPにおいて最も重要なのは、「呼吸が止まっても人工呼吸器は使わない」「食事が摂れなくなっても胃瘻はつくらない」といった手段を決めておくことではなく、「繰り返し話し合い、共有する」というプロセスです。具体的な手段を示す事前指示は一見明確ですが、状況によって実施されないこともあり、本人の意思を終末期医療に反映し、苦痛を軽減したり、本人や家族の満足度を上げたりする効果はなかったという研究結果があります。そこで、手段よりも本人の価値観や目的を重視するACPが有効だと考えられるようになってきました。手段に落とし込むことは必要ですが、そこに至るまでの本人の思いや価値観を共有しておくことで、本当の意味で意思を反映しやすくなります。

自分らしい人生を送る上で欠かせないACPですが、まだまだ認知度は低く、厚生労働省が2023年6月に発表した調査※3によれば、一般国民の「人生会議」(ACP)の認知度は5.9%と、1割に満たないことが分かっています。5年前の調査から大きな変化がなく、国や自治体などによる啓発活動が進んでいないことが改めて浮き彫りになりました。

※3 厚生労働省「令和4年度人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査報告書」

医療従事者も、その重要性を認識しながら「縁起でもない話」として忌み嫌われやすい話題のため、なかなか切り出すきっかけがつかめない人生会議(ACP)。一方で、特に若い世代では死をタブー視せずにオープンな場で語り、「よい死」を求める傾向も見られており、「死にまつわるタブーを破り、新しい終末期へのアプローチを受け入れている」「よりよく死ぬことを求める中で、多くの人々が自ら死の準備をしている」といった国際的な潮流も起きてきています※4※5。エンディングゲームや「寿命が今日決まったら展」は、人生を最期まで自分らしく生きるにはどうすればいいかを考える対話のきっかけをつくります。

※4 株式会社TBWA HAKUHODO「EDGES 2023」日本語版
※5 株式会社TBWA HAKUHODO「EDGES 2024」日本語版


エンディングゲーム制作背景

エンディングゲームは、ヘルスケアに関心のあるメンバーが集まったオンラインコミュニティ「SHIP」の活動の一環として発足しました。きっかけとなったのは、SHIPで行った「大人の自由研究」という企画でした。「大人の自由研究」とは、およそ年に1回行っているSHIP内の企画で、SHIPメンバーがそれぞれ興味のあるテーマに分かれてチームを作り、テーマに沿った活動を行います。その企画で「行動変容・ナッジ」というテーマに関心のあるメンバーが集まり、「ACPの認知度を向上させるための行動変容・ナッジを考える」というのを活動内容の方針としたのが始まりです。

活動方針をもとに話し合いを行った結果、ボードゲームを活用してACPへの関心を促すことを目標とすることになりました。ボードゲームの制作には、SHIPメンバーの医師や看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、デザイナーなどが参加しました。

ボードゲームのコンセプトは「他者の人生を追体験する」というのが軸となっています。これは「自分自身の死に目を向けるという体験だと重くなりすぎてしまう」「恋愛リアリティショーや他人の体験談のように、他人の話だと思ったらより本心に思っていることも言いやすくなるんじゃないか」といったアイデアをもとに考案されました。

そうして制作が進んでいったボードゲームは、2022年に大阪府豊中市が主催した「Urban Innovation TOYONAKA」の1事業としてプロジェクトの支援を受けることとなりました。Urban Innovation TOYONAKAを通して、豊中市健康医療部健康政策課・都市経営部創造改革課の皆さんや大阪大学でACPの研究をされている方、ACPに精通されている司法書士の方の協力を得ることになりました。いくつかの実証実験を経て、ボードゲームは形を成していきました。内容はさらにブラッシュアップされ、ついに製品版の制作にも取り掛かることになりました。製品版は、一般的に売られているボードゲームのように、箱や駒も高いクオリティを目指して制作。2024年2月に完成しました。