オンラインコミュニティーを成功させるコツは?

  1. イベントリポート

みなさん、こんにちは。SHIP編集長の増谷彩です。今秋、ヘルスケアに特化したインキュベーションパークとして、Shinjuku Healthcare Incubation Park(SHIP)が始動しました。イベントやコミュニティーを通じて、ヘルスケアに特化した新規事業の開設支援を行っていきます。

とはいえ生まれたてのSHIPは、まだまだ場作り、仲間作りの途上にあります。そこで今回は、複数のオンラインコミュニティー運営に携わる最所あさみ氏をお招きして、「コミュニティーの作り方」について考えました。

コミュニティーは「枠」より「核」で考える

最所氏が強く訴えるのは、「多くの人がコミュニティーに誤ったイメージを抱いている」ということです。一般的なコミュニティーのイメージは、まずグループを作って、その中に参加してくれる人を増やすというものではないでしょうか。最所氏は、「これはFacebookグループの弊害だと思うが、Facebookグループに入っていたらコミュニティーの中、グループを出たらコミュニティーの外、と『枠』で考えている人が多い」と指摘します。

最所氏が考えるコミュニティーは、「枠」ではなく「核」。コミュニティーは核に惹きつけられた人たちを可視化するもので、キャンプファイヤーの炎のように、「中心に核があって、そこに集まってきた人たち」とイメージしています。枠と核の考え方で特に違うのは、核からの距離が近い人も遠い人も、みんなコミュニティーのメンバーとして考える点だといえます。

例えば、コーヒースタンドを併設した書店のBOOK LAB TOKYO(東京都渋谷区)では、本やコーヒーを売るビジネスからコミュニティーに転換することを試みました。お店と顧客の関係を、本を売る、買うというだけの関係から、本を起点として店員と作者、そして顧客同士で交流する関係に変えようと考えたとき、「必要なのはコミュニティーだ」という結論にたどり着きました。最所氏はコミュニティーマネージャーとしてFacebookグループを運用したり、作者を招いたイベントを行ったりしてコミュニティーを運用しています。

BOOK LAB TOKYOは書店なので、本やコーヒーに惹かれて初めて来店する人ももちろんいます。「この初めて来た人も、既にコミュニティーで活発に交流している顧客も、ともにコミュニティーの参加者」と最所氏は言います。

コミュニティーを枠で捉えることのデメリットは、いかに枠内に入ってもらうか、いかに枠から逃がさないかといった話がどうしても出てきてしまい、コミュニティーが殺伐としてしまうところ。最所氏は、「核に興味はあるけれど、遠くから眺めていたいという人もいるはず。来る者拒まず去る者追わずのスタイルで、どんな人も切り離さないでいた方がいい」と言い、「核で考えれば、コミュニティーを維持しようと必死になることもなく、核が燃え続けてさえいれば大丈夫だと思える」とコミュニティーを核で捉えるメリットを強調します。

ファン獲得のため、まずは『核』を発信

次に大事になるのは、いかにユーザーのロイヤリティー(コミュニティーに対する親密性)を高めるか、つまりファンを作るかです。最所氏は「まずは核を発信するところから」と話します。

ファンを作るには、ヒト、モノ、場所、テーマなど、人が集まりたくなる「核」を見せることが何よりも重要です。反対に、やってはいけないのはまず形だけ作ること。最所氏は「地方の何に使っていいか分からないコミュニティースペースや、ルールが生煮えのFacebookグループ」を例に挙げます。これは、場所だけつくっても「核」が見えなければ誰が集まっていいのか分からないためです。「『核』が発信されれば、そこに惹かれる人が自然と集まってくる。まずは自分の中にある熱をちゃんと表現して、人が集まりたくなる核を作る」と最所氏は言います。

この発信では、はじめはウケるかどうかは意識せず、共感できるものを発信し続ける方が大切です。方法は、ブログでもSNSでもかまいません。特に大事なのは、「なぜ自分はこのコミュニティーを作りたいのか」を言語化することです。

最所氏は、コミュニティーを始めたいという人に「本当にそのコミュニティーをやりたいと思っているか?」と何度も聞くといいます。これは、コミュニティー運営は「大変」だから。手間が掛かり、維持できるのか、コミュニティーマネージャーが歓迎ムードを醸成できるのかなど、課題は少なくありません。こうした課題を乗り越える力になるのが、なぜこのコミュニティーを作りたかったのかという思いです。「コミュニティーは、要は熱量が可視化された場所。人の熱量を高めるには、自分自身が愛を語れるものを核とし、その愛を語り続けていく力が必要とされる」と最所氏は言います。

最所あさみを表す3ワード「本、小売り、オタク」

こうしたコミュニティーに複数携わる最所氏。講演の最後に、「今の最所あさみさんはどうできあがったのか」、SHIP恒例の講演者自身の話をしてもらいました。最所氏が自分を表す3ワードとして挙げたのは、「本、小売り、オタク」でした。

「本」は、最所氏が物心ついたときから関心が高く、やがて本は熱量の塊で、本という核の力強さに気付いたといいます。さらに雑誌好きでもあったため、「自然と編集視点、つまりコンテンツの適材適所の視点が身に付いた」と最所氏は振り返ります。

また新卒で百貨店という小売業の道に進んだ最所氏は、2つ目のワードとして「小売り」を挙げます。百貨店での勤務を通じて、「人はなぜモノを買うのか?」ということを考えてきました。これが、人はどうしたらコメントしてくれるのか、どうしたらイベントに来てくれるのかといったことを考える上で役に立っています。「人は空気で、なんとなくでモノを買う。これをいかに言語化し、再現するかが小売りで一番大事なこと。コミュニティーも空気をどう読むかが大事なので、同じこと」と最所氏は話します。小売りで顧客に商品を買ってもらうために導線について考え抜いた経験が、どうしたら参加者が自己紹介しやすいかといったことを考えることが好きなのも、これが由来なのかもしれません。

そして、実は最所氏はジャニーズ事務所のアイドル、韓国のK-POP、野球と渡り歩いてきた「オタク」。ファンクラブなどでの経験が、今のコミュニティーマネージャーのノウハウにも生きています。「ジャニーズのコミュニティーはすごい。公式が何もしないのに本人不在の誕生日会を開いたり、ファン同士で集まるのが楽しいみたいなところがある。エンターテインメントは核の熱量がすごいので、公式が何もしなくても盛り上がる」(最所氏)。

対象が同じオタク同士だと、参加者として自分がされたら嫌なことが分かるのでやらないとか。例えば、「Twitterを一生懸命やっている人って、現実の生活が充実していなかったりコミュニケーションを取るのが苦手だったりする。Twitterでは盛んに会話していたのに、実際に会ってみたら一言も言葉を発しなくて困惑!といったこともあり得る。それでも、好きなものの話ならできる」。学校が楽しくない子などもこうした交流で救われた人がいると考える最所氏は、自分を受け入れてもらえる、自分に合ったルールのコミュニティーをもっと増やしたいと考えています。「リアルの場だけだと知らない人同士が突然つながるのは難しい。だから最初にオンラインのつながりを作り、それからオフラインのコミュニティーで会うといった流れがいい」。

オフラインでもオンラインでも、コミュニティーは逃げられない「枠」ではなく行き来できる「場」だという最所氏。「コミュニティーマネージャーは、いかに自分のコミュニティーにどっぷり浸かってもらうかを考えがちだが、それは危うい」と指摘します。「人を嫌いになるときは近づきすぎたときだと思うので、近づきすぎたと思ったら離れてみるのもいいかもしれない」――。最所氏は今、自分に合った様々なコミュニティーに属しながら、行き来する意識でコミュニティーを作れる人が増えることを願っています。

燃やし続けられる「核」はあるか

「コミュニティーを『枠』ではなく『核』で捉える」という最所氏のお話、ものすごく納得しました。この考え方の転換があれば、「いかに枠から逃がさないか」という、顧客からすると身構えたくなる策を講じるよりも、核を発信したり、参加者同士の雑談を生んだりする発展的な仕掛けを、どんどん考えたくなります。

ビジネスでも有志の集まりでも、コミュニティーを使うとものすごく幅が広がるし、顧客満足度を高められるチャンスがあるんだなぁと再認識しました。やっぱり、好きなモノやヒト(「核」)に時間もお金も使いたいし、「核」への愛を語り合いたいものですよね。

ただ一方で、一時期「オウンドメディア」がブームになっていたように、コミュニティーもブームになっています。運営する側になって考えれば、コミュニティーは単発のイベントとは全然違って、始めたからには続けなくてはいけません。参加者が数人でもいれば、いきなり「やっぱり無理なのでなかったことに」という姿勢は良くないし、ファンになってくれた人を反対にアンチにしてしまう大悪手にもなりかねません。こうした運営する側の責任や負担を乗り越えるためにも、「核」の設定がいかに大事か、全体を通してよく分かりました。SHIPでヘルスケアを核としたコミュニティーが作りたくなった方は、ぜひイベントやコミュニティーに顔を出してみてくださいね。 (増谷 彩)

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