病院の経営企画を語ろう

  1. イベントリポート

みなさん、こんにちは。

SHIP スタッフの甲浩子です。
今回は、SHIP史上最速で定員が埋まったイベント、「病院の経営企画を語ろう」についてレポートします。

「病院」というと、普段は医療従事者の方々が注目を浴びがちで、事務職の方にスポットが当たる機会は少なめです。
しかし、病院は医療行為の提供だけで成り立たつものではなく、「経営」という観点が不可避です。
目まぐるしく変化する社会環境の下、病院の4割が赤字という厳しい状況も耳にします。経営企画って、どんな事をしているのでしょうか?

今回は、日本で最大の病床数、1166床を誇る倉敷中央病院経営企画部(現:医事診療サービス部 医事企画課)の犬飼貴壮氏をお迎えしてお話を伺いました。

 

戦略×、戦術◎ が最も悪い

 

 病院の経営企画職とは、具体的には中期経営計画策定やM&A、新規事業推進など幅広い業務を担い、病院長の参謀として、組織の戦略策定と実行を行う職種です。
規模が大きな病院であればあるほど、病院長の選択と決断の責任は大きくなります。その院長に孤独な戦いをさせないために、選択と決断を共に行うのが経営企画職だと犬飼氏は語ります。

戦略策定・実行を考える上で、書籍『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』に記載のある例を用いながら、犬飼氏は戦略の重要性を示しました。
戦略の良し悪しを縦軸、戦術の良し悪しを横軸にしたマトリックスを用いて、

 

「ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)から東京ディズニーランド(TDL)に行く」方法を考えてみましょう!

 

  • 【A】戦略〇戦術〇:正しい方向(=TDL)へ、正しい手段(=飛行機)で行く
  • 【B】戦略〇戦術×:正しい方向(=TDL)へ、誤った手段(=徒歩)で行く
  • 【C】戦略×戦術×:誤った方向(=香港ディズニーランド)へ、誤った手段(=徒歩)で行く
  • 【D】戦略×戦術〇:誤った方向(=香港ディズニーランド)へ、正しい手段(=飛行機)で行く

 

Aがベストというのは、言わずもがなですね。

ではワーストは?

Cと考えがちですが、最悪パターンはD。
気が付いた時には目的から大きく離れ、リカバリーすることが困難だからです。これが「戦術よりも戦略が大事」と言われる所以です。

出典:USJを劇的に変えた たったひとつの考え方(森岡 毅)

 

病院経営は特殊ではない

 

犬飼氏は、早稲田機械工業科を卒業後、NTTデータに入社。金融システム(銀行・クレジットカード)の提案営業と商品企画を経て、倉敷中央病院の経営企画部に入職。
現在は医事課へ異動し、多職種連携ならびに業務運用改善を担っています。
犬飼氏は、経営企画部の役割を野球球団になぞらえ、ある時は「監督」、ある時は「球団職員兼マスコット」と表現します。
監督として中期経営計画策定や、JCIの取得促進、診療科や各部署への単年度目標の立案指示・支援を行う一方、球団職員兼マスコットとして、予算計画の策定や健診センター等の収益事業推進、職種間の意見調整も行ってきました。

※患者の安全や医療の質向上が世界基準で組織的かつ継続的に取り組まれているかを審査して認定するもので、世界中の医療機関に適用される国際規格のこと

犬飼氏は、JCI認定の取得促進の業務を例に、経営企画での仕事が、NTTデータ時代に行っていたシステム開発と類似しているとの考えを説明。
前述の通り、「システム開発で要件定義が最重要であるのと同様、正しい実践は行うには『戦略』を正しく理解することが最重要だ」と話しました。

病院の課題を1つずつ解消していくことがやりがい

 

 幅広い任務をこなす病院の経営企画職。講演の最後に、犬飼氏にとって経営企画職の楽しさとは?を伺うと、「『ありがとう』と言ってもらえること」との回答でした。「現場はやりたい事があって、だけど沢山ありすぎて身動きが取れなくなってしまっている。それを一緒に紐解いて、1つずつ解消していく。それがやりがいです」というコメントで、お話を締めくくっていただきました。

 

医は仁術か算術か

病院経営でよく言う、「医は仁術か算術か」という言葉があります。「目の前の患者を救うべき病院が利益を考えるなんて」「病院は非営利組織なのに」と医療従事者の中には算術を毛嫌いする人もいます。しかしながら、「非営利」は利益を得ない、得てはいけないのではなく、利益分配が禁止されているだけ。No margin, No mission。病院は質の高い医療を提供するために、利益を得ていく必要があります。犬飼氏のお話しにあった「仁術的要素と算術的要素も掛け合わせて医療機関として成立させるために存在するのが経営企画職だ」と言う言葉に共感しました。

犬飼氏が最後に話したやりがいを伺って、患者から感謝される医療職、医療職から感謝される経営企画職、そんな「ありがとう」の溢れる病院が増えてほしいなと感じました。

<甲>

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