当院が独自に定める質指標「QI-8」のご紹介

 居宅で医師と患者さんが1対1になる訪問診療は、診療がブラックボックス化しやすいもの。「QI-8」(図)は、在宅医療の質を測るために、当院が独自に定めた指標です。

おうちの診療所が定める在宅医療の質指標「QI-8」
図 おうちの診療所が定める在宅医療の質指標「QI-8」
①cherry picking rate:症例のえり好みをせず幅広い症例を受けているか。初診時の平均要介護度と重症度で測定予定。②cure&care coverage:幅広い疾患に対応できる体制を維持できているか。受け持ち患者の主病名割合と、お断りした紹介患者の妥当性から算出。③incident number:転倒、新規の褥瘡、疼痛管理不良など、質に関係すると思われるイベントの全患者数当たりの発生数。④emergency call rate:全患者数当たりの電話再診実施数。⑤emergency visit or ambulance request:全患者数当たりの緊急往診発生数。⑥severity rate:救急搬送後の入院率(≒搬送が適切だった割合)⑦death confirmation rate /Net Promoter Score:自宅看取り率。⑧graduate number:在宅医療から外来通院に戻れた患者数。

 「質」という定量評価しにくいものをあえて数値指標化しているのは、自分たちが目指す「質の高い在宅医療」を、根拠あるものにしたいという思いからです。図の③、④、⑤など、下げることを目標にしている項目は、月1回または2回の定期訪問診療で、予防的処置を含めた質の高い診療を行うことで低く保てると実感しています。

単一指標ではなく複合的に見る

 QI-8は、全ての指標を上げればいい、下げればいいというものではなく、全体のバランスを見る指標です。

 例えば、⑤の緊急往診率を下げることだけを目標にすると、単に緊急往診をしないようにすれば件数をゼロにすることもできてしまいます。しかし、「緊急往診を減らす努力をする」のと「緊急往診をしない」のとでは意味が全く異なり、後者は患者さんに不利益を与える恐れがあります。万が一そのような誤った判断をすると、本来は在宅医療で十分に対応できる軽症の患者さんまで病院に搬送されることになってしまい、「大変な思いをして病院に行ったが、すぐに帰される」事例が増えます。すると、⑤の先にある「⑥入院が必要だった割合」は低下するでしょう。緊急往診も適切に行った上で、本当に病院での加療が必要な患者さんのみ責任を持って依頼することができていたか、定期訪問時に何らかの予防的処置をしておけば今回の緊急往診は防げたのではないか、単一指標ではなく全体的なバランスを見て検証します。おうちの診療所が考える「不適切な医療」があれば「QI-8」のどこかに歪みが表れると考え、日々のカンファレンスで振り返っています。

 またQI-8は、臨床現場での「診療の質」に加え、限りある医療費を適切に使うという経営や政策の意図も加味した複合的な質指標となっています。頻回な緊急往診は、診療所に利益をもたらしますが、患者さんに苦痛を与え、スタッフのQOLを低下させるだけでなく、医療費を過剰に使うことにもつながります。社会保障を持続可能にするためにも、患者さん・診療所・国に三方良しの診療を行っている裏付けにもなるよう設計しました。 

在宅医療のQIを検証

 QI-8が、現在世の中に存在する他の在宅医療の質指標(QI)と比較してどのような位置づけかを検討する研究も行いました。

 まず、在宅医療に関連した既存の医療の質指標やその候補とされた項目を収集し、QIの候補としてリストにまとめました。

 次に、在宅医療に関わる多様な専門職パネルを設置し、それぞれ独立して各QI候補の適切性と測定意義と実施可能性をもとに評価。RAND/UCLA適切性評価法(デルファイ変法)を用いて評価を行い、複数回の検討会を経て最終的に38項目のQIリストが作成できました。これをドナベディアン・モデルに従い分類すると、定期的なストラクチャー評価5項目、定期的なプロセス評価22項目、アウトカム評価11項目となりました。

 その結果、現在提唱されている在宅医療のQIは、QI-8でいう③と⑦に資する項目が多いことが分かりました。これは、主に「診療の質」に着目した既存研究が多いためと思われます。研究の結果を生かすため、当院ではアウトカム指標として転倒・骨折、褥瘡、誤嚥性肺炎、救急搬送、入院、死亡をQI-8の③に組み込み、全ての症例をデータベース化することにしました。プロセス指標に関しては、基本的に22項目全ての指標を測定できるよう、当院カルテのフォーマットを策定しました。例えば、ACPの記載欄や、痛みのスコアを点数で表記する欄を作成し、フォーマットに沿ってカルテを記入する際に、自然と大事な指標に目が向く仕組みとしました。

 QI-8は、事務スタッフも含め診療所全員で協力して、開院時から情報を収集しています。情報はデータベース化し、診療を客観的に見直すための材料として活用しています。

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