訪問診療で働く診療看護師(NP)(当院看護師インタビュー)

診療看護師(Nurse Practitioner:NP)とは、NP協議会が認めるNP教育課程を修了し、NP認定試験に合格したもので、患者のQOL向上のために医師や多職種と連携・協働し、倫理的かつ科学的根拠に基づき一定のレベルの診療を行える看護師のこと。おうちの診療所には、現在2名のNPが在籍しています。診療の質向上に貢献してくれているお二人に、NPになったきっかけや在宅医療の診療所で働くワケ、今後の展望を聞きました。

お二人が診療看護師(NP)になった経緯を教えてください。

平田 看護師になり10年ほど経過した頃に、患者さんの変化や、看護師としての自分の希望がうまく医師に伝わらず、もやもやすることがあり、集中ケア認定看護師の資格を取得しました。当時働いていたICUは、各科ごとの主治医により管理を行うオープンICUで、集中治療科専門医はいませんでした。認定看護師の資格をとって人工呼吸器の設定など医師と相談し行うようになると、医師の対応にも変化があり、医師にケアや治療の事で相談しやすくなりました。

しかし、私自身に根本的な医学の知識が足りないと感じるようになった頃、NPの大学院が誕生したという話を聞いて興味を持ち、東京医療保健大学大学院看護学研究科の2期生として入学しました。卒後は、以前に勤務していた病院でNPの研修ができなかったため、国立病院機構東京医療センターに入職しました。今、おうちの診療所にいる菊野隆明先生がクリティカルケア支援室長としてNPの育成にも携わっていました(当時の記事:独自養成の診療看護師が病棟管理やリハを担当[日経メディカルオンライン])。同センターには1期生のNPもいて、院内で「NP」という職種が認知されていたので、働きやすい環境でした。 

病院全体で、NPは何人くらいいましたか?

平田 働き始めた時は外科に2人、救急科に3人で合計5人のNPがいました。私は救急科の所属で、救急外来で二次救急と三次救急を診ていました。働くうちに、生活やQOLに関連するケアは救急の医師が苦手とするポイントだと気づき、そこを特に積極的に取り組みました。

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平田尚子(ひらた・なおこ)●1996年看護師免許取得。2009年集中ケア認定看護師取得、2013年日本NP教育大学院協議会 NP資格認定。特定行為21区分38行為修了。特定行為研修指導者コース修了

例えば、早期離床や早期の経口摂取再開などは、救命の現場では医師が割く時間が少ない分野です。当時、理学療法士(PT)やリハビリテーション科の医師は救急搬送直後の患者対応に慣れておらず、リハビリ開始のタイミングを判断したりリスク管理をする人がいませんでした。そのため、リハビリテーション科の医師に診察ポイントなど研修していただき、早期にリハビリ介入し看護師、PTとチームを作って早期離床に取り組むことにしました。経口摂取の再開においても言語聴覚士(ST)と一緒に嚥下評価に取り組みました。救急科にいると急性期しか関われないのですが、横断的に動けるNPは病棟でのケアにも関わることができたため、病態の見通しも立つようになりました。
 
中村 私がNPという言葉を初めて知ったのは、日本の病院を辞めてワーキングホリデービザ(ワーホリ)でオーストラリアのへき地病院で働いていたときでした。アリススプリングスというウルル(エアーズロック)の玄関口になる町で、PCC(Patient Constant Carer:ペイシェント・コンスタント・ケアラー、以下PCC)という仕事についていたときのことでした。

PCCというのはどんなお仕事なんですか?

中村 一言でいうと、介護資格がなくても病気や障害、高齢者のサポートを継続的に介入することができるインフォーマル介護者です。例えば、オーストラリアでは、日本と違って身体抑制をしません。危険行動をしたり指示が入らない患者さんは、PCCが継続的に見守り、安全に入院生活が送れるようにサポートします。メインの業務は清潔ケアや食事介助など生活のサポートです。医療の資格は不要で、病院での研修(コードブルー)を受け、面談で簡単な口頭試問に答えればクリアできます。日本の看護師免許が功を奏したのか、語学力ゼロの私でも就けました。
 
あるとき、仕事中に雑談した看護師さんから「米国でNurse Practitionerになるための軍資金を準備する目的で僻地の病院に来た」と聞きました。語学力がない当時の私は、『Nurse Practitioner? Nurseがpracticeする? でも動詞にerがついているから名詞? 何だろう?』と疑問を抱くくらいでした。

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中村未希(なかむら・みき)●2003年看護師免許取得。2018年日本NP教育大学院協議会NP資格認定。特定行為21区分38行為修了。2019年特定行為研修指導者コース修了。緩和ケア研修会(PEACE)修了

次にこの話を思い出したのは、日本に帰国したときです。私が渡豪した時期に、日本でもNP教育が開始されており、帰国した際に偶然、知り合いの看護師が日本でNP資格を取得し活躍していることを知りました。その方に「NP、合ってると思うよ」と勧めてもらったときは正直全く興味がなかったのですが、勤務していた病院が突然閉院することになり、なんとなく「受験してみようかな」と、NPへの道を歩みだすことになりました。

色々なご縁がつながり、NPの道に進んだ私ですが、入学後は同級生のやる気に満ち溢れたエネルギーにギャップを感じ、「なんとなく、で飛び込んではいけない世界に足を踏み入れてしまった」という戸惑いと後悔を覚えました。しかし、素晴らしい仲間達に出会えたこと、医学の基礎的な知識を学ぶことで広角的な視野を持つことができ医学×看護がより興味深くなってきたことで楽しめるようになり、2年間の大学院教育を乗り越えることができました。

ご縁が紡いだ道だったんですね。NPは取得するために費用も時間もかかるし、NPになりたい!とやる気にあふれた人ばかりかと思っていました。

中村 お金はかかりました。私が入学した2016年から、厚労省の教育訓練給付金制度が開始されたのは助かりましたが、約500万円はかかりました。
 
平田 お金はかかりますよね。私は東京都外から出てきて家賃も必要だったので、2年間で700万円くらいかかりました。現在は奨学金制度があるので、これからNPを目指す方は活用できると思います。
 
中村 あとは、学生のうちからNPとしての就職先を探さないといけませんでした。今でこそインターネットで検索すればNPを募集している医療機関がいくつもヒットするようになってきましたが、当時はNPって何?という感じで認知度が低く、募集している医療機関はほとんどありませんでした。同期の大半は勤務していた医療機関に戻る人ばかり。就職活動で地方に出向いた経験もありますが、方言が強すぎてまったく聞き取れず、言葉の壁で断念しました。

そんな中、またご縁がつながり、都内の総合病院でNP立ち上げに従事することになりました。大学院の先生には「たった1人で何かを立ち上げるようなタイプではないでしょう」と心配されましたが、チャレンジすることになりました。

NPの導入というのは、どんなことをされたのでしょうか?

中村 まずは院内でNPを知っていただくことが必要と考え、周知活動を行いました。所属は、人材育成センターという研修医が所属する部署です。並行して、NP規約の策定、2年間のNPの卒後プログラム作りや、特定行為の手順書のひな型を作り、模索しながらNPの働き方を確立していきました。入職2年目で特定行為指導者研修を受講した後は、特定行為研修を受講している看護師の育成を行いました。たった1人で立ち上げましたが、現在NPは7人まで増え、各診療科で活躍しています。

その中で、NPとしてはどんな働き方をされていたのですか?

中村 2年間の卒後研修プログラム修了後は、総合診療・内科・感染症内科で活動しました。COVID-19の時期をへて、内科救急を学ぶべく集中治療科へ研修にいきました。研修中に心臓外科の先生からお誘いを受け、心臓外科で1年弱活動することに。さらにその後、血液内科からお声がけいただいたので、3年ほど血液内科で活動しました。

先ほど平田さんが仰っていたように、その科の医師があまり時間を割きたがらないポイント、ニーズをいち早く察知し、介入することで、NPがなくてはならない存在になります。例えば、血液内科では治療のために末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)を頻回に挿入します。多忙な医師に代わり、ローテート中の研修医や専修医師に解剖学的評価、手技、トラブルシューティングの対応など指導介入しました。挿入後、安全に合併症なく統一した管理ができるよう現場の看護師と協働し管理マニュアルを作成、統一した教育介入をすることで、信頼され頼られる存在となりました。また、ローテーターの指導介入を行うことで、血液内科の医師にしかできない業務に集中してもらい、業務の効率化にも貢献しました。

病院でNPとして働かれたあと、在宅医療の診療所で働こうと思ったきっかけを教えてください。

平田 私は救急科にいたのですが、今後も救急科で働き続けるか、悩んでいました。これからは在宅医療にも携われたらと思ったのですが「長く集中治療・救急科でやってきたので、在宅医療ができるかな? 楽しいかな?」と不安でした。

いざ在宅医療にかかわってみると、救急と通じるものがあると思いました。救急外来でやっていたことが、居宅で行われている感覚です。自宅で発熱したら、その患者さんにとっては救急です。そのため、救急外来での経験はとても役立っています。

よく、救急外来で働いていた時の感覚で訪問診療に来ると大変じゃないか?と心配されますが、私は看護師だからか特に違和感なく移行できました。訪問診療では、使用できる検査機器が限られ、血液検査の結果報告も当日とはいきません。しかし、身体診察や問診である程度の仮診断を立て、治療介入するのは同じです。おうちの診療所では、初期対応をする際にエコー検査なども積極的に任せてくれています。
 
中村 私は緩和ケア認定看護師の日浦さえさんの誘いもあり、おうちの診療所に来ました(関連記事:緩和ケア認定看護師が癌になって伝えたいこと)。在宅医療と聞いて思い起こしたのは、私の祖母のことです。祖母が亡くなったのは20年以上前です。自宅で最期を迎えたいと言っていましたが、最期は家族が不安になり救急搬送し、病院で亡くなりました。家で最期を迎えたいという祖母の希望を叶えるには、どんなサポートが必要だったんだろう、と振り返る機会にもなりました。病院外の医療を経験したことがないため不安もありましたが、「患者の生活を診る医療をやってみよう」と決意し、4カ月前におうちの診療所に入りました。

今後、おうちの診療所でNPとしてやってみたいことがあれば教えてください。

中村 海外では在宅の現場で再入院率減少に向けた取り組みが盛んに行われています。当院のQI-8の指標(関連記事:当院が独自に定める質指標「QI-8」)を確認しながら、まずは後方的に調査し、現状や要因を把握し評価していきたいと考えています。自宅で最期まで安全に安楽に療養できるよう、NPとして強く優しく支えていきたいと思っています。
 
平田 石井先生とも話しているところですが、今後は緊急往診を依頼されたときに定期診療中の医師を待たず、NPが初期対応し問診・身体所見をとることで医師とのオンライン診療につなげたり、緊急性を判断して救急搬送や病院受診を提案できるのではないかと考えています。

今は、どんな緊急往診にNPが介入するのがいいか検討するために、当診療所の緊急往診の現状を後ろ向きに調査しています。今後は、どう関わるのが良いか仮説を立てて運用・評価していきたいと思っています。職場のニーズを見つけて介入するのが好きなので、「診療の質や効率を改善するために、私たちNPにできることは何だろう」と考えながらやっていきたいと思っています。

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