つわりに配慮した働き方(当院看護師インタビュー)

おうちの診療所 目黒で在宅診療看護師として働いていた星野看護師の妊娠・つわりをきっかけに、おうちの診療所では看護師の在宅勤務や内勤といった働き方を試行錯誤してきました。出産をへて、現在は育児休業中の星野看護師に、当時の業務や感想を聞きました。

 妊娠が分かった時点で、今後の働き方について医師たちに相談し、「無理のない範囲で診療同行もしていこう」という話になっていました。しかし、すぐにひどい吐き気に襲われるようになり、業務の遂行が難しくなってしまいました。私は初産ですが、正直つわりがこんなにつらいとは思いませんでした。

 私の場合、まず気軽には電車に乗れませんでした。さらに、訪問診療は、車に乗って移動しなければならないので、トイレに駆け込むといったことが難しくなります。処置時や施設の匂いも厳しいものがありました。ちょうどご飯どきの施設の診療に同行した際は、匂いで吐き気が出てしまい、しばらく外れて待機したり、足下がふらつくため半日で帰宅しなければならなくなるなど、業務に支障を来すようになってきました。

 その様子を見た坂本看護師が心配してくれて、在宅勤務を提案してもらったことから、医師を含めたメンバーでどう遠隔で働くかを考え始めました。在宅勤務を始めた当初は、現場の坂本看護師からバックオフィスでやってほしいことを依頼され、対応していくことに。スピード感としては、妊娠が判明した月の下旬には在宅勤務に切り替わるくらいの速さでした。

 在宅勤務では、例えば訪問診療のバイタルサインをカルテにまとめて入力する作業や、看護師業務のマニュアルがあまり整備されていなかったので作成・更新する作業を依頼されていました。それらに慣れてくると、退院後の調整や患者紹介における連携先への電話、訪問スケジュールの管理・調整なども行うようになりました。あとは、事務の電話記録を見て、「これは医師にすぐ電話した方がいい」など緊急度をトリアージし、連絡を取っていました。

 体調には波があり、ひどいときは夜眠れず声も出ないといった状態だったので、スマートフォンとパソコンを使い分け、その日の状態と優先順位を考慮し作業しました。現場の看護師とこまめに連絡を取り、体調に応じて仕事の量や内容を調節してもらっていました。

つわりのピーク後は在宅勤務に加え内勤も

 私は3カ月ほどするとつわりのピークが過ぎたので、皆さんと相談して、その後は週2日の出勤と在宅勤務を組み合わせる方針に変わりました。この頃には気持ち悪さはなく、電車も乗れるようになっていました。とはいえ、お腹も大きくなってきたため出勤しても診療同行はせず、診療所での内勤としました。内勤では、医薬品や医療材料などの残数確認、発注といった物品管理が加わりました。

 また、私がこの後産休に入って看護師の数が減ることを考え、これまで看護師が担っていた業務の一部をドライバーに移管することにしました。まず採用物品を整理し、定数や発注のタイミングを決めるといった物品管理の仕組みを作り、発注方法も含めたマニュアルを作成。非医療職や機械操作が苦手な方でも作業ができるようにしました。

 診療所にいることで、診療班が訪問診療に出ている中で必要になった医療材料や医薬品を私が用意しておき、診療中にドライバーが取りに来て運んでもらうといったこともできました。在宅勤務時より診療班の会話を聞く機会が増えたため、患者さんの状態がより把握しやすくなり、準備に活かすことができました。

 あとは、在宅勤務のときも担っていたことですが、電話です。特に病院からの患者相談や初診調整は医療用語も多いため、事務よりも看護師が対応した方が良さそうな場面で電話を替わっていました。他にも訪問診療した患者さんが、緊急搬送や外部受診になった時の調整です。診療班が長時間その場にとどまることは後の訪問予定もあり難しいので、診療班と情報を共有しながら、私が電話で病院や施設と連絡を取って調整することで、スムーズに進められることもありました。

 以前は訪問に出ている間、診療所には医療職がいなくなるため、診療班が訪問先への移動中に病院に電話し、病院からコールバックがあったときには処置中で電話を取れない、ということの繰り返しでした。何度も電話することになるので、当院だけではなく連携先のご負担を減らす一助となれればとの思いでした。当院では以前から内勤看護師が必要なのではないかという議論があり、今回結果的に「内勤看護師はこういったことができる」という実績を積むこともできました。

柔軟な働き方の選択肢があるありがたさ

 今回、「つわりが思った以上につらい」となり在宅勤務をすることになったとき、最初に思ったのは、「看護師なのに、そんな働き方で仕事として認めてもらえるのか?」ということでした。このつらさがいつまで続くのかも分からないし、つわりが治まったとしてもお腹が大きくなった自分が医師と2人で患者宅に訪問し、力仕事ができるのかなど、不安ばかりが募ります。このつわりの症状が特段つらいのか、誰でも同じくらいつらいのにみんな頑張って仕事をしているのかも分かりません。自分の不安、赤ちゃんに対する不安、いろんなことが分からない中で自分で判断していかなければならず、試行錯誤で目の前の仕事をやっていました。

 そんな中、坂本看護師から「星野さんの働き方が、ゆくゆく後から入ってきた人の基準にもなるだろうし」と言っていただき、かなり救われました。医師たちも含め、自分の状態に合わせて仕事させてもらえたのは本当にありがたかったです。

 この働き方に適性のある看護師を考えると、ZoomやSlack、クロスログといった当院が使うICTツールを使うことに抵抗がない人かなと思います。また、私はこれまで診療所の医師たちに同行していたからこそ、「あの先生はここが抜けるだろうな」とか「この先生はこのタスクが残っているだろうな」と推測し、先回りしてフォローができました。同様に、施設や施設薬局の特徴なども分かっていたことで出来るフォローもありました。看護師が内勤や遠隔で在宅勤務をするにしても、専門ではなく、診療同行もある程度した方がいいと感じています。

 今回の働き方について、石井先生には「事務と看護師の間、二遊間を守っている感じ」と表現されました。事務側と診療班側で、伝えたいけれど伝わりきっていないことの橋渡しをするような仕事が多かったです。事務側と診療班側の両方の事情を知っているのが、内勤看護師のいいところだと思います。

 これまで少し無理をして体調を崩す看護師や、産休に入るタイミングで辞めてしまう看護師をたくさん見てきました。もし病院の看護師だったら、休むことにも抵抗があり、私も働き続けられなかったと思っています。在宅勤務や内勤という選択肢があるだけで、続けられる可能性がかなり高まると思いますし、それを職場から提案してもらえたのはとてもありがたいことでした。医療界でこういう柔軟な働き方ができるのは、とても意義のあることだと思います。

 今後は、産後の働き方についても診療所と試行錯誤していきたいと思っています。