在宅医療の診療所で働く~看護師Q&A編~

病院で働いているときは、なかなか知ることのない在宅医療の世界。在宅診療に興味があっても、実際そこで看護師はどんな仕事をしているのか、訪問看護ステーションの仕事とどう違うのかなど、疑問は尽きないのではないでしょうか。今回はおうちの診療所で働く「在宅診療看護師」のお仕事について、よくいただくご質問をQ&A形式でまとめてみました。

回答者

坂本夏奈子(以下、坂本):おうちの診療所 目黒常勤看護師。キャリアのスタートは急性期病院。人生の節目で一度臨床から離れ、有料老人ホームで看護の仕事を再開。おうちの診療所 目黒のオープニングスタッフ。

星野美由紀(以下、星野):おうちの診療所 目黒常勤看護師。大学病院の手術室で勤務した後、クリニックや個人病院、訪問看護など、多様な職場での勤務経験を経て、おうちの診療所 目黒へ。勤続1年ながら、“内勤のプロ”の異名も。

日浦さえ(以下、日浦):おうちの診療所 目黒看護師。緩和ケア認定看護師で、既に2回資格更新をしているベテラン看護師。在宅患者さんが増加する現状や、生活と共にケアをする訪問看護にしっかり取り組みたいとの思いから、おうちの診療所 目黒へ。みなし指定の訪問看護を担当。

石井洋介(以下、石井):おうちの診療所 目黒常勤医師。病院勤務医時代の専門は消化器外科。詳細はこちら

Q.「在宅診療看護師」の仕事について教えてください。
Q.1日に何件くらい訪問しますか?
Q.看護師でバックオフィス(内勤)は珍しいと思いますが、どんな業務をしているのですか?
Q.訪問看護師と在宅診療看護師の違いは、どういったところにあるのでしょうか?
Q.在宅診療所で、医師の訪問に看護師が同行するのは一般的なのですか?
Q.実際に看護師と訪問診療をしてみて、いかがでしたか?
Q.在宅医療の経験がない看護師が就職する場合、研修などはあるのでしょうか?
Q. 医師とのコミュニケーションに関して、ハードルを感じることはありませんか?
Q.訪問同行していて大変なことはありますか?
Q.おうちの診療所では理学療法士(PT)や作業療法士(OT)などのセラピストが同行することもあります。セラピストの視点から学ぶことはありますか?
Q.訪問診療のメリットや魅力をお聞かせいただけますか?
Q.臨床上はどんなことが大変ですか?
Q.在宅医療診療所での勤務を検討している看護師の方へメッセージをお願いします。

Q.「在宅診療看護師」の仕事について教えてください。

坂本:医師とともに患者さんのお宅や施設を訪問し、必要とされる診療やケアを提供したり、リソースの調整をしています。訪問と訪問の合間には、ケアマネジャーさんや訪問看護師の方と連絡をとって状況を伝える、診療所にかかってくる緊急電話の対応をするといった業務もあります。

Q.1日に何件くらい訪問しますか?

坂本:午前中で4~5件、午後も4~5件訪問します。施設へ訪問するときは20人弱まとめて診ることもありますね。1日フルで訪問同行する日もありますが、半日はバックオフィス(内勤)業務をする日もあります。基本的に、訪問は毎日しています。

Q.看護師でバックオフィス(内勤)は珍しいと思いますが、どんな業務をしているのですか?

星野:メインは電話対応です。事務では対応しきれない内容の電話に対応したり、医師の訪問日程や新規の患者さんの初診日の決定といったスケジュール調整をしています。物品の発注や在庫管理、在宅酸素療法に使う機器の手配などをすることもありますね。

坂本:医師が作成した処方箋の内容を確認して薬局に送ったり、薬局からの疑義を受けることもあります。訪問診療で必要となるバックオフィス業務のうち、事務では対応しきれない業務を何でもやっている感じです。

Q.訪問看護師と在宅診療看護師の違いは、どういったところにあるのでしょうか?

日浦:まず訪問看護師の働き方としては、訪問看護ステーションから看護師が派遣されるケースと、おうちの診療所のような医療機関から派遣されるケース(みなし指定)があります。両者の業務内容に大きな違いはありません。介護保険と医療保険の制度内で、1日数件のお宅を訪問して看護をするという点では同じです。

坂本:在宅診療看護師は、これという型が決まっているわけではありません。普段やっていることで考えてみると、私が最も訪問看護師の業務と違うと感じるのは調整業務ですね。
当院は主治医制ではなく、常勤医師3人のチーム制としているので、訪問する医師が前回と異なる場合があります。カンファレンスやチャットツールで情報共有はしていますが、前回診療した医師の治療方針や、その治療を選定した時の温度感など細かいニュアンスが伝わりきらないことがあります。そうした場合に、実際に現場で患者さんとお会いしたことがある私たちが情報を補足することで、別の医師が診察しても方向性が変わらないように心がけています。状態が日々ゆらいでいる患者さんに対しては、看護師として診察時にアセスメントした自分の考えを率直に伝えています。

また、患者さんやご家族にとって必要なサービスやケアを見極め、訪問看護ステーションやケアマネさん、病院など関係各所に連絡する仕事もしています。採血や褥瘡のケアなど、医師の指示のもとで行う一般的な看護もしますが、専門知識を生かして、院内外の調整役となれる点は、訪問看護師と大きく違うところだと思います。

Q.在宅診療所で、医師の訪問に看護師が同行するのは一般的なのですか?

石井:法律的には看護師同行の必要はなく、医師が一人で訪問しても問題はありません。今回、開業にあたって諸先輩にお話しを伺ったところ、ハッキリ言語化されてはいませんでしたが、「同行者は看護師が良い」という方が多かったので、当院では基本的に看護師に同行※してもらうことにしました。
※必要性に応じて理学療法士の同行もあり

Q.実際に看護師と訪問診療をしてみて、いかがでしたか?

診療同行する坂本看護師

石井:やっぱり看護師同行で良かったと実感しています。まず、看護業務に助けられていますね。キュア(治療)とケアは少し視点が違っています。病院勤務医時代は点滴や採血を「やっておいて」と指示した後、どんな考えで看護師さんが手技を行っているか知りませんでした。例えば、医師である僕は、キュアの視点で点滴の薬剤をどれにすればいいかを考えます。一方、ケアの視点でみる看護師さんはただ点滴を刺すだけでなく、その人が生活をする上でよくする動作などから点滴刺入の位置を考えたり、テープの貼り方を工夫していることを知りました。他にも、浮腫のケアや褥瘡ケアなど、「ケアの技術というのは、医師の専門性とは全く違う、特別な専門性だ」と実感することがよくあります。

また、治療選択肢が残っていて、どこまでやるか悩みディスカッションしたときには、看護師が患者やご家族から日頃聞いている話の内容から、QOLが大きく低下するような治療を実施しないことを医師に提案してくれて、結果的によいお看取りにつながったなと実感することもありました。あくまで患者やご家族の生活の視点から出される意見には、ものすごく助けられていますし、診療の質も上がっていると思います。

星野:同行した際は、今後の治療の方向性や治療薬の変更などをディスカッションすることもあります。また、医師が患者さんの身体を観察している間、私はお家の中を見たり、家族の話を聞いたり、生活状況の情報を得るなどして、そこで気づいたことを医師に伝えています。その人がどうすれば楽に生活できるかを考え、伝えられることがあるという点では、看護師の専門性が活かせているかなと感じます。

石井:外部との連携面でも助かっています。たとえば、退院時に医療デバイスがたくさん入った状態だったり、薬がたくさん処方されているなど、病態が複雑な患者さんに関するやり取りは、やはり医療的な知識から生活背景まで、深い理解がある人でなければ対応できません。開院して間もない頃は医師が電話にでないといけないことも多かったのですが、今は完全に看護師が代替してくれていますね。

坂本:病院の看護師とやり取りする際など、どうしても医療の知識が必要な内容が入ってきます。看護師が直接コミュニケーションすると話の展開が早く、迅速に進めていけるところはあります。時間のロスなく医師に話を伝えられるのは大きいですね。

石井:「気になることがあればいつでもご連絡ください」とは言うものの、患者さんもご家族も、いきなり「先生いますか?」とは言いづらいところがあるようです。訪問を重ねて信頼関係ができていることもあり、今では電話の一言目に「星野さん、いますか?」「坂本さん、いますか?」と言われることが多いです。

Q.在宅医療の経験がない看護師が就職する場合、研修などはあるのでしょうか?

石井:在宅診療は正解のない世界です。なので、看護についても『在宅診療看護師マニュアル』みたいなものはありません。坂本看護師は在宅医療の経験はありませんでしたが、研修などはしませんでした。在宅医療経験の長い医師に診療同行するなかでやり方を確立していったと思います。星野さんは坂本看護師に何回か同行していましたね?

星野:最初は医師と一緒に訪問して、車の中や夕方のカンファレンスで、在宅医療の仕組みを聞くなど、手探りでやってきました。ただ、看護師によって視点が違ったら困るなと思って、「坂本看護師の同行に付いて行きたいです」とお願いしました。シャドーイングみたいな形で、何回か同行させてもらいました。

石井:今後も、基本的には、看護師さん同士で業務を教え合う形ですね。最近は人も増えてきて、非常勤の方は日浦看護師の訪問看護に同行してもらってケアを学ぶなど、教育にも時間を使えるようになってきました。教育隊長の日浦看護師、訪問先ではどんなことを教えていますか?

日浦:訪問先でどういうケアをするかを事前に伝え、最初はやっていることを見てもらいます。行った先にどんな物品があるか、ケアの時に使わせていただいているものはどれかなど、説明しないと分からないことも多いです。特に、お家の中でやるべきこと、やってはいけないことはしっかり伝えるように意識しています。その辺りはきちんと教えてから業務を進めていきますので、いきなり丸投げということはないですね。

石井:訪問看護師さんだと、いきなり一人で患者さんのところにいかないといけないケースも多いと思いますが、基本的には医師に同行する形になるので、ひとりでどうにかしなければいけないということはないかなと思っています。

Q. 医師とのコミュニケーションに関して、ハードルを感じることはありませんか?

星野:当院の医師たちは、今まで経験した病院や訪問看護で関わってきた医師より、圧倒的に話しやすいです。同じ時に同じ場所に行っているので、診ている患者さんの状態が一緒なんです。また診療所スタッフ自体が少人数で、いつでもみんなの顔が見えるので先生とも話しやすく、壁を感じることはないですね。

坂本:日々のカンファレンスや月曜日の全体会議など、会議が多く、医師とコミュニケーションをとることが多い職場です。ハードルや壁はないですし、むしろガツガツいってます(笑)

Q.訪問同行していて大変なことはありますか?

星野:これは在宅あるあるなんでしょうか。トイレ休憩と水分のとり方には一時かなり困っていました。先生がすごく大事な話をしている時に「トイレを貸してください」とはどうしても言いにくくて。坂本看護師について行った初回の訪問では、膀胱が限界に達する寸前まで我慢したこともありました(笑)

石井:コロナの影響で、コンビニでトイレを借りられなくなって大変でしたね。理学療法士(PT)のスタッフからは「それがコミュニケーションのひとつにもなるから、僕は比較的よく借りますよ」とは聞きましたが、なかなか切り出しにくいですよね。

日浦:坂本看護師に初めて会った時にも、トイレのことを聞かれたのを覚えています(笑)
私はめぼしいところは頭に入っているので、そのポイントで済ませることが多いですね。地域包括支援センターに営業がてらお邪魔して、お借りすることもあります。

坂本:トイレ以外では、車内でPCやスマホを使って記録・連絡をするので、慣れるまでは車酔いがありました。今は慣れてきましたし、優秀なドライバーさんもきてくれたので、ほぼほぼ酔わずにできています。

石井:クッションを置いたりして、少しでも酔わないような工夫はしていますね。

Q.おうちの診療所では理学療法士(PT)や作業療法士(OT)などのセラピストが同行することもあります。セラピストの視点から学ぶことはありますか?

星野:私は病棟での経験があまりないので、お家での実践の部分で「こうやるとよりスムーズにいくんだ」「この患者さんがより良い生活をするにはこういうところに着目したらいいんだ」と気付かされることは多いです。

坂本:医師や看護師は医療に目を向けがちですが、セラピストは患者さんの生活そのものをよく見られているように思います。家全体を1周しながら、キッチンに何が配置されているか、生活導線はどうなっているかを観察し、生活状況に応じてリスクを判断するのはすごく難しい仕事で、さすがスペシャリストだなと感じます。

石井:医療職はどうしても障害側に目を向けがちで、できないことをどうできるようにするかを考えるんですが、セラピストは今できていることに目を向けて、それを減らさないようにしながら、どう生活を豊かにするかを考えてくれます。いろんな視点が入ることで「障害を補う」以上の良い医療になっていると感じます。

Q.訪問診療のメリットや魅力をお聞かせいただけますか?

星野:行き帰りの時間、ずっと患者さんについての話ができるのはメリットですね。病院の外来では、医師が指示を出していき、医師がいなくなってから看護師が実行するのが普通です。一方、訪問診療では看護師がやっているときも先生が見ていますし、疑問に思ったことはその場で聞ける安心感もあります。身体の状況を医師と一緒に確認できるのは大きいですね。

坂本:患者さんの生活のなかに入って診療していくので、入院中や通院中には把握しきれない生活の背景が分かってきます。薬が飲めてないからコントロールが悪いのか、飲んでいるけれど効いていないのか、そこを医師と直接確認して、その人その人の個別性を考えながら、治療やケアをその場で相談して決めていけるところがメリットだと思います。

Q.臨床上はどんなことが大変ですか?

坂本:医師との同行訪問は一人10~20分ぐらいを目安にしているので、全員をしっかりケアするのはほぼほぼ不可能です。そこは信頼している訪問看護さんに継続的なケアをお願いするとか、重点的にケアしていただきたい部分を伝えて引き継いでもらうといったことで対応していきます。ただ、私は実際ケアをしたいタイプの人間なので、どうしてもプレイヤーとして手を動かしたい気持ちは残りますね。

星野:患者さんと関係性が築けてくると、より楽しくなってくるので、そのケアしたくなる気持ちはすごく分かります。医師と一緒にお宅に伺っていると、「なぜこの注射をこんなに打つんだろう?」など、外来では分からなかった背景を知られるですね。そういう経緯をふまえて、治療は医師がこう決めたけれど、看護師である私が提供できるケアは何かと考えるために、もうちょっとお話しして情報を得たかったと思う日も正直ありますね。

坂本:ただ、限られた時間のなかで、患者さんに何が必要なのかを見極めて調整していくという仕事には、違った意味のやり甲斐もあります。正解がないところで、道をつくっていく楽しさというのもあると思います。

Q.在宅医療診療所での勤務を検討している看護師の方へメッセージをお願いします。

坂本:在宅診療看護師は前例の少ない、未知の分野です。正解も不正解もないので、より質の高い医療、より高い質の在宅ケアをできるよう、一緒に働ける仲間ができたらうれしいです。

星野:在宅医療を始めるまで「この方のお家での生活がもうちょっと見えたらいいのに」と思うことが多々ありました。日々の訪問同行では、今まで見えなかった背景の部分に触れることができています。そういった部分にフォーカスしたい人には、在宅診療看護師はおすすめです。
また、トラブルが起きた時にはチャットツールや電話で連絡をとりあってチームで対応できる協力体制もあります。困ったことがあっても、助け合いながら楽しく働ける職場環境です。在宅医療で働いた経験がない方も、一緒に学びながらやっていきましょう。

日浦:在宅医療というと、一人で判断しないといけないんじゃないかなど、不安がいっぱいあると思いますが、お二人が言っていたように、困ったことがあればすぐにみんなが一緒になって考えていける環境がある診療所です。私も分かることは一緒に考えていく姿勢でやっていきたいと思っています。一緒にお仕事をしてくださる方は大歓迎で、お待ちしています。

こちらで、おうちの診療所 目黒の1日のスケジュールもご紹介しています。見学も随時受け付けていますので、当院にご興味をお持ちいただけた方はお気軽にお問い合わせくださいね。

また、訪問診療所で働く看護師さんの働き方や役割について、当院診療同行看護師がマイナビ「シゴトークLive【看護師チャンネル】」に出演してお話していますので、お時間があれば下記の動画もご覧ください。