「第2回 福祉と建築」(イベントレポ)

  1. イベントリポート

2020年7月、一昨年も開催した「福祉と建築―知る、つながる、やってみる―」の第2回を開催しました。

新型コロナウイルス感染症の影響で、残念ながらオンライン開催となりましたが、第1回福祉と建築で出会った建築家と福祉事業者の新たな取り組みも報告され、とてもワクワクする時間となりました。

冒頭は2つの基調講演。福祉楽団の飯田大輔氏による「ケアの原理」と、東京大学名誉教授の長澤泰氏による「建築が癒すとは」から始まります。
飯田氏はまず、ケアの原論を紹介しました。

その中で話したのが、国際生活機能分類(ICF)の考え方です。環境(建築など)を固定因子として扱い、個人が合わせる(変数因子となる)ようにしてきた世界障害分類(ICHDH)の考え方とは違い、環境も変数因子として捉えます。

例えば、5cmの段差(環境)を乗り越えられない人(個人)は、リハビリをしたり道具を使うといった変化が必要と考えるのがICHDH、5cmの段差を個人の変化によって乗り越えてもいいし、スロープなどで段差そのものをなくす、環境を変えるといったことも考えられるのがICFです。「その段差が5cmであれば、今健常者だと思っている私は乗り越えられるが、もし1mの段差があれば、私も障害者になる」(飯田氏)。環境(建築)は個人の「障害」を定義するものになるため、大変重要です。

次いで、長澤氏の基調講演です。中世の病院は、患者の死に場所でした。その印象を変えたのが、ナイチンゲール病院です。「病院に入っても治って出てこれるんだ」と世の中の人が認め始めたそうです。

20世紀以降の病院は大規模集中型の「身体修理工場」となりました。患者は病院内を迷いながら目的地に行き、各所で待つスタイルです。これにより、運営機能の効率は格段に向上しました。「今ではこれが当たり前と思われている。そして患者は病院では簡単に死ななくなり、我々もそれを望んだ。しかし、救命されても必ずしも幸せではない患者も出現した」(長澤氏)。

そこで長澤氏が30年前に提唱したのが、「病気の館」としての病院ではなく、健康を作る館、「健院」にするということ。「当時は大批判を受けた」と振り返ります。

ところで、死に場所ではなくなった、150年前のナイチンゲール病院では何が行われていたのでしょうか。例えば、ベッド間の距離を1.5mと決めました。これは、隣の人の咳が届かないよう必要な距離で、ナイチンゲールはこの距離を経験的に定義したそうです。また、患者のベッドから見える窓外の景色が重要と指摘。「新鮮な空気と陽光に代表される自然界の動きを感じることが回復を早める」としました。

ナイチンゲールの主張として長澤氏は、「病院にいる限り、患者は医療・看護者に頼り、自分自身が回復する過程にあることを自覚しないため、内科的・外科的治療を終えたら速やかに回復期の環境に移すこと」を紹介。さらに「全ての病人は、家庭、あるいは社会の中でケアされる世界がいずれ到来し、100年後には病院はなくなっているでしょう」と予見したそうです。長澤氏の提唱した「健院」と似ていますね。長澤氏は「今までは、手術室のように、機能に応じて空間を作っていたが、今後は空間ファーストでいいのではないか。空間さえあれば何とでもなる」と締めくくりました。

この後は、建築家と介護・福祉事業者のクロストークです。「第1回福祉と建築」で出会った建築家(トミトアーキテクチャ)と介護事業者(社会福祉法人ライフの学校)が始めた宮城県仙台市の特別養護老人ホーム「萩の風」の庭の改修プロジェクト、「庭の嫁入り」が紹介されました。

続いて、同じく第1回福祉と建築で建築家のツバメアーキテクツが登壇していたことから生まれた2つのプロジェクトが紹介されました。株式会社シンクハピネスは「村作り」のビジョンイラストを依頼。地域の人や関係者とワークショップを開催し、3つのイラストを作成しました。

社会福祉法人の緑風会は、介護老人保健施設の大規模改修、保育所のリニューアルなどを依頼。カーテンウォールの改修、施設内の改修なども行いました。保育園は耐震と断熱をしながらもひろびろとした空間を作る予定となっています。福祉事業所と建築家のコミュニケーションの取り方やプロジェクトの進め方について、経験から語られました。

事例紹介では、サービス付き高齢者住宅「銀木犀」を運営するシルバーウッドの堺さんと下河原さんが登壇。サービス付き高齢者住宅の建築コンセプトを担当する堺さんからは「12棟も建てていると、介護職員からもこうしてほしい、ああしてほしいという意見がでてくる。しかし、本人の暮らしやすさよりも、介護職側の介護しやすさという目線ばかりになっていることが多いので、基本的に意見は反映しない」というコメントもありました。

次いで、事例紹介は、長野県軽井沢町でクリニック・通所介護施設の「ほっちのロッジ」を開設準備中の藤岡さんと、建築を担当するパトラックの安宅さんが登壇しました。

【建築家ピッチ】建築家名と紹介プロジェクトの1つ
(1)大垣優太さん:てらす峰夢
(2)能作淳平さん:シェア商店富士見台トンネル
(3)伊藤孝仁さん:吉祥寺さんかく屋台
(4)笠置秀紀さん:SHINJUKU STREET SEATS
(5)金野千恵さん:tecoのcare

基調講演から始まって、事例紹介、建築家ピッチまで、盛りだくさんだった1日。オンライン開催となりましたが、最初から最後まで、110人ほどの参加者が積極的にコメントしながら参加しました。ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました!

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